「大阪万博(2025年)AW食品調達」に関する意見書を提出しました。

2025年に開催される大阪万博会場内での食品の調達について、大阪府の吉村知事の意向もあり、東京オリンピック・パラリンピックよりも積極的なAW(アニマルウェルフェア)食品の調達が検討され、昨年より有識者からなる持続可能な調達ワーキンググループによって「持続可能性に配慮した調達コード案」の策定作業が進められてきました。AWFCJとしては注目度の高い大阪万博の食品調達コードに意見・要望を述べることは、一般及び業界に向けてAWの普及につながり、その議論は私たち自身の勉強にもなるので大変意味のあることと捉えています。

そこで、会員間の議論を前提として、理事のカバリヤ上原まほさんが大阪万博食品調達部署(事務局)と連絡を取り、昨年末に現状などをオンラインでヒアリングする機会を持ちました。ミーティングには人数の都合上、当方からはカバリヤ、植木、大木、氏本、向山、秋川、池嶋、矢崎が参加し、先方よりその時点での状況報告及び「可能性に配慮した調達コード 第1版(案)」が示され、東京オリンピック・パラリンピックよりも徹底したものしたいとの意向もお聞きしました。当方からは具対的な信頼性の担保として「フランスなどで鶏卵に取り入れられている生産履歴の表示の導入」「国家的なイベントなので、国の政策の先端をいくもの」「山梨県のAW認証制度のような公的な認証を得た食材の調達」がよいでのはないかなどの意見を述べました。
その後、博覧会協会内部において持続可能な調達ワーキンググループオンライン会議が開かれ、3月半ばに「持続可能な調達コード 第2版(案)」(修正反映版)がHPに公開され、意見募集(パブコメ)をしておりました。この「調達コード 第2版(案)」(修正反映版)の中では「OIE基準に照らして適切な措置がとられていること」が求められ、推奨事項として「有機畜産」「放牧」などがあがっています。(調達基準として採卵鶏の「ケージフリー」への言及はありません)

参考リンク:

https://www.expo2025.or.jp/news/news-20230315-04/
https://www.expo2025.or.jp/overview/sustainability/group/

そこで、AWFCJとして皆様にお知らせしました通り、4月8日に会員検討会を実施し、参加された会員有志の間で畜産物に関する議論(情報共有・意見交換)を行い、意見を取りまとめて、4月14日に下記意見書(提案・要望)を提出いたしました。

 

大阪万博2025「持続可能性に配慮した調達コード(第2版)(案)」に対する意見書

 

アニマルウェルフェアフードコミュニティジャパンは、“人も動物も満たされて生きる”という概念のもとに、アニマルウェルフェア(家畜福祉)の普及を推進する団体です。会員にはフードチェーンの各カテゴリーに属する生産農場、研究者・専門家、流通・製造・飲食などの食品事業者、消費者で構成されており、それぞれアニマルウェルフェアの普及に努めています。

 

「持続可能性に配慮した畜産物調達コード(第2板)(案)」にアニマルウェルフェア畜産物を加えていただきましたことに、アニマルウェルフェアの普及を目指す者として敬意を表したいと思います。

 

大阪万博のコンセプトは「いのち輝く未来社会のデザイン」とありますが、アニマルウェルフェアは直接的に人がいのちとのつながりを感じ、いのちと向き合い、学ぶことができます。世界中から人が集まる万博会場でアニマルウェルフェアを打ち出すことは、人が「いのち輝く未来社会=持続可能な社会」を考える絶好の機会になると思います。

以下、当会会員有志が検討いたしましたいくつかの意見・要望を提示いたします。

[1]「持続可能性に配慮した畜産物調達コード(第2版 修正反映版)(案)」についての意見・要望

 

(1)畜種ごとの象徴的な事項の表示と優先調達あるいは調達目標値の提示

調達目標値を提示して、目標を達成できるよう意識を高めていくことが大切と思われます。

①「ケージフリー」卵表示と調達目標値10%

欧州では2012年に日本で一般的な過密なバタリーケージが禁止され、ケージフリー卵が55%を超えています。オーストラリアでは60%、アメリカでも20%を超えています。日本ではまだ90%以上がケージ養鶏ですが、世界の流れはケージフリーへと舵を切っています。

 

②「母豚の妊娠ストールフリー」及び「群飼い」肉の優先調達

EU、スイス、ニュージーランドは禁止、オーストラリア、カナダ、アメリカの10州が段階的廃止の段階にあるといわれ、多くの多国籍企業が廃止を決めています。

 

③「放牧飼育」牛乳、牛肉の優先調達 (目標値3%)

日本の耕作放棄地や中山間地域を生かした放牧飼育は、日本の低い飼料自給率や食料自給率の向上、持続可能な農畜産業の推進につながります。

  • 一般社団法人日本草地畜産種子協会が認証する放牧畜産基準認証制度では、2023年1月現在、放牧畜産実践農場が111件認証されており、これには酪農(乳牛)と肉牛を含んでいます。
  • 一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会では、2016年からアニマルウェルフェア認証制度を開始し、家畜の飼育方法や環境に関する認証基準を満たした農場を認証しています。動物、施設、管理の3つをベースにした45項目について審査員が現地審査を行い、3つのベースすべてで評価項目の80%以上をクリアしていると認証を取得することができます。認証には放牧を必須条件としていないものの評価項目の一つとするなど、日本の特徴を踏まえた基準設定をしています。2023年3月現在、12の乳牛農場が認証されています。肉牛認証業務も進めています。

 

(2)博覧会協会が認める認証の明示及び既にあるアニマルウェルフェア認証を取得した食材の優先調達

「持続可能性に配慮した畜産物の調達機準7.」に「博覧会協会が認めるアニマルウェルフェアに関する認証を受けて生産される畜産物も推奨される」とあり、注として「国際的なアニマルウェルフェアに関する動向を踏まえて博覧会協会が認めるもの」とありますが、具対的な認証基準が示されておりませんので、当事者は当惑しかねません。そこで、博覧会協会が認める認証の明示と、既にあるアニマルウェルフェア認証を取得した食材の優先調達を提言します。

<前記以外の既にあるアニマルウェルフェア認証>

  • やまなしアニマルウェルフェア認証制度

全国の自治体では初の認証制度で、2022年から募集を開始しています。アニマルウェルフェアとは、家畜の誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なくし、行動要求が満たされた健康的な生活ができる飼育方法を目指す考え方として、エフォート〔取組(計画)認証〕基準、アチーブメント〔実績(成果)認証〕基準があり、2022年9月22日現在、7農場がアチーブメント認証を取得しています。

  • エコデザイン平飼い鶏卵第三者認証(エコデザイン認証センター)

2022年に誕生した日本初の平飼い鶏卵の第三者認証として現在申請を受け付中です。有機JAS認証、畜産関連の特色JAS認証業務に携わっています。

 

(3)国産飼料地区産物の優先調達

日本ではお米の消費量が減少しています。このままでは国内の農地が消滅しかねません。家畜の飼料としての飼料用米を有効活用すれば、国内の飼料自給率も向上し安全・安心な畜産物の生産に繋がります。また耕作放棄地も減少し、田園風景も守られます。このような視点から国内産飼料を給与した畜産物の優先調達の目標値を定めるのがよいのではないかと思います。

 

(4)採卵鶏・肉用鶏、肉用牛の日本固有種(伝統種)の優先調達 (目標値15%)

国産種鶏、和牛など日本の風土気候にマッチした在来種の維持と開発が持続可能な畜産につながります。

  • 持続可能性に配慮した鶏卵・鶏肉(JAS0013認証を取得)の調達:JAS0013は国内資源の利活用や、アニマルウェルフェア・周辺環境への配慮などを規定し、国内における鶏卵・鶏肉の生産を持続可能なものとするもので、既に認証商品が販売されています。

 

(5)放牧または舎飼いで、面積当たり飼養羽数あるいは頭数を明示する農場からの優先調達

 

(6)循環型(日本型)有畜複合生産農場からの優先調達

 

[2]アニマルウェルフェアの普及についての要望

世界では、グローバルな食品企業がアニマルウェルフェア食品の生産拡大に大きく舵を切って、アニマルウェルフェア食品のシェアが拡大しています。日本でも食品事業者や消費者の間でアニマルウェルフェア食品への関心が高まっており、アニマルウェルフェアに配慮した畜産品を求める声が大きくなっています。また、生産現場では、アニマルウェルフェア畜産を志向する若い生産者が増えています。

今後、アニマルウェルフェアを広く普及させるには、これまでアニマルウェルフェア畜産や畜産品に触れることのなかった人々に、アニマルウェルフェアを考える、知ってもらう機会の拡大が大切と思います。日々食のことを考える消費者、それを供給する仕事に携わる食品事業者への普及の場づくりとともに、日本の未来を担う子どもたちにアニマルウェルフェアを知ってもらい、それによって、いのちあるものとの関わりや日本の農畜産業への関心を高めることが大事と思います。

一般の方や子どもたちがアニマルウェルフェアについて考え、知るために、

(1)万博会場において、食や農業に関するイベント、アニマルウェルフェア講座の実施及びその会場の設定、アニマルウェルフェア畜産物を含む持続可能な食材のメニュー提供、「アニマルウェルフェアの日」の設定。

(2)小・中学校での学習課題や夏休みの自由研究課題テーマなどのサポートとなる企画をお願いしたいと思います。

 

[3]海外及び日本のアニマルウェルフェア動向の調査データ・研究の公開の場の設定

(1)海外では、アニマルウェルフェアに長い歴史を持つ国々があり、高い基準やガイドラインを持ち、先進的な取り組みが行われています。また近年は、前項で述べましたようにグローバル食品企業のアニマルウェルフェアへの取り組みが加速しており、日本の食品マーケットにも続々とアニマルウェルフェア食品流入の兆しが見えています。また、日本の食品企業の海外輸出に際してもアニマルウェルフェア食品の開発は避けて通れない課題となっています。

こうした世界的なアニマルウェルフェアの拡大状況に対応するために、ビジネスやマーケット情報、各国のガイドライン・基準、研究開発、生産方式など、海外のアニマルウェルフェアに関する最新動向を紹介することはアニマルウェルフェアに関心を持つ畜産業者、食品事業者、消費者の意識の向上・レベルアップに役立ち、日本の畜産物の品質・付加価値がアップし、内外のマーケットでの優位性を得られます。

(2)前述のように、日本国内ではアニマルウェルフェア畜産を志向する若い生産者が増えています。また、すでに高レベルでアニマルウェルフェア畜産を実践している農場も各地にあります。しかしながら、現状でアニマルウェルフェア畜産を実践している農場は中・小規模が多く、十分にその動向(生産技術、研究成果など)などが広く伝えられていません。日本の特性を生かした農畜産物生産の普及のためにも、万博会場において日本のアニマルウェルフェア畜産の調査データや研究の公開の場を設置していただければと存じます。

日本の持続的農畜産業の発展のために、ぜひご検討いただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

 

以上