アニマルウェルフェアフードコミュニティジャパンは、“人も動物も満たされて生きる”という概念のもとに、アニマルウェルフェア(家畜福祉)の普及を推進する団体です。会員にはフードチェーンの各カテゴリーに属する生産農場、研究者・専門家、流通・製造・飲食などの食品事業者、消費者で構成されており、それぞれアニマルウェルフェアの普及に努めています。

 この度、農林水産省では、畜産技術協会が各畜種ごとに作成した「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」を普及するというこれまでの方針を改め、農林水産省において畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針を示し、その普及を図っていくとしたこと及び飼養管理指針(案)について専門家委員による意見交換会を開催し、広く意見を募集されましたことに、アニマルウェルフェアの普及を目指す者として謝意を表したいと存じます。国としてアニマルウェルフェア畜産の普及をさらに進めることになると期待しております。

 

[1]飼養管理指針(案)へのいくつかの改善要望

 指針(案)につきまして、当会内の有志で検討された中から以下の項目について改善の要望をいたします。

 

1.専門家委員による意見交換会について

 専門家委員による意見交換会が、非公開で行われていますが、その理由がよくわかりません。透明性を担保という面からも公開する必要があるのではないでしょうか。さまざまな委員から意見書も出されているようですが、それらについても公開されていないことなど、問題があるように思います。

 また、専門家委員の中に動物保護、家畜福祉の専門家が見当たらないということも指摘されており、選考基準についてもその理由を公開していただくほうが良いと思います。指針を出す上では、しっかりとした科学的根拠が必要であると思います。もちろん動物福祉と経済の両立も必要であるためアニマルウェルフェアによって上昇するコストを誰が負担すべきか、あるいはいかにコストを下げるかという問題もありますが、EUのウェルフェアクオリティ(WQ)プロジェクトのようにサイエンスをベースとした委員会や研究開発プロジェクトを進めることを望みます。

 

2.「実施が推奨される事項」「将来的に実施が推奨される事項」について

 各指針の項目の中に「実施が推奨される事項」及び「将来的に実施が推奨される事項」がありますが、具体的な数値の設定がなく、3年後、5年後など具体的な見直しの期限もなく、抽象的であることが否めません。また、ほとんどの項目に置いて「将来的に実施が推奨される事項」に記載がないことも疑問です。記載がないことで、改善することを求めないと解釈されるのではないか、後から記載することが難しくなるのではないかとの懸念があります。

 国内畜産の現状追認的なアニマルウェルフェア飼養管理指針にならないためにも、積極的に「実施が推奨される事項」及び「将来的に実施が推奨される事項」を記載し、かつ定期的(例:「2年ごとに」など)な見直し作業を行うことを明記すべきでだと思います。今作成している指針は現状を反映するものではなく、将来の展望を示すものである必要があると思います。

 アニマルウェルフェア畜産品の輸出と国内向けについてレベル差が懸念されています。「実施が推奨される事項」は、国際レベルに合わせた内容にしていただきたいという意見があります。

 

3.測定指標について

 畜種別指針(案)の末尾に、参考として測定指標が示されており、農林水産省として測定指標を発展させていく準備があると理解でき、前向きと捉えていますが、参考として付け加えるのではなく、指針の中に盛り込むべきであると思います。

 

4.指針に数値目標を盛り込むべきか

 指針に数値目標を盛り込むべきという意見がありますが、それには賛否両論があります。

(1)指針に一定の数値を盛り込まなければ社会的な合意を得ることは難しい。盛り込まないと指針の体をなさない。具体化されていたほうが、生産者として分かりやすいという意見。

(2)細かな点は、現場の状況に合わせて調整されるべき。今回の指針案に数値が入っていないのは、むしろ生産者にとってよいことだと思う。生産者と消費者が連携・議論して、消費者の求めに応じて自分たちのあるべき生産物を作るという合意の中で数値を取り決めていくのが最も望ましい姿、という両極の意見があります。

 また、指針であっても罰則規定がないと、国としてどういう方向なのかが分かりにくいという意見もあります。

 

5.抽象的でなく、具体的な表現を

 抽象的な表現が多く、管理者が都合よく解釈できるような記載になっていることを懸念する意見もあります。例えば家畜の取扱に関して「手荒な取扱は避けて、丁寧に取扱う」とか、輸送に関しては「適切な対応を取る」などですが、項目によっては具体性を持った対応を示していただくことも必要と思います。

 

6.アニマルウェルフェアの定義について

 令和2年に農林水産省(畜産振興課)より示された「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について 」の中には、アニマルウェルフェアの考え方及び定義が示されていましたが、今回は技術的な指針案であるためかアニマルウェルフェアの定義が示されていませんが、アニマルウェルフェア(家畜福祉)をより深く理解するために、今回も示すべきではないかと思います。

 

7.日本の農業政策におけるアニマルウェルフェアの位置付け

 アニマルウェルフェアを推進するに当たり、持続可能な畜産としてアニマルウェルフェアに配慮した飼養管理があると考えます。ただ、農業政策の中にアニマルウェルフェアがどのように位置付けられるということがないと、アニマルウェルフェアの普及が生産農家に説得力を持たず、具体的に進んでいかないのではないかと懸念しています。農林水産省として、日本の農業政策の中でのアニマルウェルフェアの位置付けを明確にしていただきたいと思います。

 さらには緑の食料システム戦略でも謳われているような輸出対応、輸出強化のためのアニマルウェルフェア対応ではなく、国内と世界の持続可能な農畜産業の振興のためのアニマルウェルフェアの推進として捉えるべきだと考えます。

 

8.アニマルウェルフェアの取り組みに向けたサポート

 飼養管理指針を土台にして生協、スーパーなど流通事業者が独自のガイドラインを作成し、賛同する生産者の生産物を扱うなど、畜産物を購入・流通する側のイニシアチブで多様な取り組みの土壌が培われるべきだと考えます。そこに向けたサポートの施策もお願いしたいと思います。

 

9.多様な畜産形態を可能にする施策

 耕作放棄地や中山間地域などを活用し、輸入飼料に頼らない自給型でより高いレベルのアニマルウェルフェアを実現する畜産への視点もが必要ではないでしょうか。中山間や耕作放棄地を活用して平飼いや放し飼いをする、その土地の特性に根差した多様な生産形態を可能にする畜産のあり方や技術体系をまとめていくことも大事と思います。それをサポートする施策をお願いいたします。

 

10.ケージフリーに関する議論を

 欧米先進国を中心に採卵鶏のケージフリーが進む中で、なぜケージを残すのかという根拠が説明されておらず、現在の飼育形態をそのまま継続できる内容となっています。ケージフリーに関する議論を進めていただきたいと思います。

 特に気になるのは、採卵鶏に関してはケージありきで議論が進んでいるように思われます。これからしっかりとした科学的研究を継続し、データに基づいて指針を出していただきたいと思います。

 

11.家畜の輸送に関する議論を

 家畜の輸送には、距離及び時間の制限が必要であり、その数値を記載すべきだと思います。また、時間ごとの給水・給餌も必要であり、その数値の記載も重要です。

 現状で特長距離・長時間輸送の多い肉用牛の場合には、輸送中に給水がなく放置されて消耗が激しく、大量死亡事故が起きたこともあります。輸送での家畜の健康異変・事故は防疫に関わることもあり、専門家委員の意見交換会等でも議論していただきたい問題です。

 

[2]アニマルウェルフェアの若年層に向けた普及についての要望

 世界では、グローバルな食品企業がアニマルウェルフェア食品事業への投資、生産拡大に大きく舵を切って、アニマルウェルフェア食品のシェアが拡大しています。こうした状況を反映して、日本でも食品事業者や消費者の間で関心が高まっており、アニマルウェルフェアに配慮した畜産品を求める声が日増しに大きくなっています。また、生産現場では、農林水産省のアニマルウェルフェア畜産に向けた普及の取り組みによって、アニマルウェルフェア畜産を志向する生産者が増えつつあります。

 今後、アニマルウェルフェアを広く普及させるには、これまでアニマルウェルフェア畜産やアニマルウェルフェア畜産品に触れることのなかった人々に、アニマルウェルフェアを考える、知ってもらう機会の拡大が大切と思います。日々食のことを考える消費者、それを供給する仕事に携わる食品事業者への普及の場づくりとともに、日本の未来を担う子どもたちにアニマルウェルフェアを知ってもらい、それによって日本の農畜産業への関心を高めることが大事と思います。

 子どもたちがアニマルウェルフェアについて考え、知るために、(1)地域の食や農業に関するイベントにおける親子アニマルウェルフェア講座や農場見学会の実施、(2)小・中学校での学習課題や夏休みの自由研究課題テーマとして組み込むなど、地域や学校での子どもたちに向けたサポートとなる施策をお願いしたいと思います。

 

[3]海外及び日本の動向の詳細な調査実施とデータの公開

(1)海外では、アニマルウェルフェアに長い歴史を持つ国々があり、高い基準やガイドラインを持ち、先進的な取り組みが行われています。また近年は、前項で述べましたように、グローバル食品企業のアニマルウェルフェアへの取り組みが加速しており、日本の食品マーケットにも続々とアニマルウェルフェア食品流入の兆しが見えています。また、日本の食品企業の海外輸出に際してもアニマルウェルフェア食品の開発は避けて通れない課題となっています。

 こうした世界的なアニマルウェルフェアの拡大状況に対応するために、ビジネスやマーケット情報、各国のガイドライン・基準、研究開発、生産方式など、海外のアニマルウェルフェアに関する最新動向の詳細な調査を実施し、データを公開することは、アニマルウェルフェアに関心を持つ畜産業者、食品事業者、消費者の意識の向上・レベルアップに役立ち、日本の畜産物の品質・付加価値のアップにもつながり内外のマーケットでの優位性を得られます。

(2)日本国内においても、アニマルウェルフェアへの関心の高まりとともにアニマルウェルフェア畜産を志向する生産者が増えています。また、すでに高レベルでアニマルウェルフェア畜産を実践している農場も各地にあります。しかしながら、現状でアニマルウェルフェア畜産を実践している農場は中・小規模の農場が多く、十分にその動向(実態や生産技術、実践に即した研究成果など)などが広く伝えられていません。地域の特性を生かした畜産物生産の普及のためにも、日本のアニマルウェルフェア畜産の詳細な調査の実施とデータの公開は必要と思います。

 同時に、日本のアニマルウェルフェアに関連する研究を、ぜひ促進してほしいと思います。

 日本の畜産業の発展のための施策として、ご検討いただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

 

以上。